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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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すっぴんクラウン(下)

+ + + + + + + + + +
「今すぐに俺の視界から消えろ。そうでなきゃ撃ち殺す」
ああ、久しぶりに怒ったな、と自己分析した。
「えー、何その冗談笑えな」
ジャコン。
ぴたりと眉間に押し当てた銃口。
嘘や冗談ではない感触がその先にあるだろう。
栗尾の顔がぴしりと凍り付いた。
「五秒だけ待つ。五」
「ヒ」
引きつり固まるのをそのままに、俺は淡々とカウントしていく。
ぐい、と厚化粧にめり込むよう更に突きつけた銃口に、ようやく我に返って栗尾は悲鳴を上げた。
「イ、 ヤァアアア!!!」
そのままめちゃくちゃな体勢で部室のドアにしがみつき、どうにか身体を外に投げ出した。
「!!」
五秒過ぎたところでトドメの発砲。
壁に穴を開けたそれを見て、硬直していた糞マネが立ち上がって声を上げた。
「な、んてこと! ちょっと、ヒル魔くん、相手は女の子よ!?」
「女だからって許されることじゃなかっただろ」
拳銃をしまい込みながら俺は糞マネを見上げる。
「・・・ヒル魔くん、随分と短気になったんじゃない?」
「ア?」
「いつもだったらあれくらいで怒ったりしないのに」
どうしたの、と心配そうな顔までする糞マネ。
人がいいにもほどがある。相当な言われようだったろうに。
「おら、コーヒー淹れろ」
「・・・私のじゃなくてもいいでしょ?」
どうにもこだわる糞マネに俺は盛大に顔をしかめて言う。
「あんな糞化粧臭ェ女が淹れたコーヒーなんざ飲めたもんじゃねぇ」
糞マネが休みの間は仕方なく口にはしたが、結局全部飲みきらず残していたのだ。
「・・・別に、ほら、コーヒーだけじゃなくて、私でなくても色々と」
「出来てねぇから言ってんだろ! おらさっさと淹れてこい!」
どうにもぐずぐずと動きの悪い糞マネの台詞に被せて言い放ち、もうこれ以上言わせるなというポーズで目の前のデータを取り上げる。
やはりきちんと纏まってない。
「テメェ、データ用のマニュアル作ってなかったか?」
「作ってるわよ」
その割には纏まってねぇな、と思った俺の鼻先に漂う糞化粧の臭い。
・・・確かディオールとか言ったか。
まったくろくな仕事しやがらねぇ。追い出して正解だな。
俺の寄った眉を解くように、コーヒーの匂いが漂ってきた。
「誰が淹れても同じなんだけどなぁ・・・」
糞マネが琺瑯のドリップポットを傾けながら呟く。
「何だって誰がやったって同じことだもの」
「何拗ねてやがんだ」
ふわりと漂うのは糞マネ自身の、どこか甘ったるい匂い。
「す、拗ねてなんかないわ」
ようやく運ばれてきた、化粧の匂いがしないコーヒー。
丁寧に淹れられたそれを口にし、俺はようやく息をつく。
誰が淹れても同じ、な訳ねぇだろ。
少なくともこのコーヒーもデータまとめもテメェじゃなきゃ駄目なことだ。
・・・いや。
俺はカップの水面を見ながら記憶を辿る。
泥門デビルバッツを立ち上げたばかりの頃は、誰も彼もが素人揃いで、何を取っても一つずつ教え込むのが当たり前だった。
素人に教えるのは当たり前。
できが悪いなんていつものこと。
根気よく教え込んでそれでも使える部分だけ見繕って使ってきた。
ずっとそうしてきた。
「今日のヒル魔くん、変ねぇ」
ふ、と。
笑みを浮かべて自らのカップを傾ける糞マネを見る。
近くを通れば甘く匂うだけの、化粧っ気のない顔。
いつからこいつの存在がこれだけ大きくなったんだ。
「・・・ホントに変よ。ねえ、どうしたの?」
過不足なく手元に欲しいものを寄越す手腕を持ち、それでいてその全てを押しつけることなく当たり前のように存在させる。
いつも必要な時に、必要なものを、必要なだけ。
この便利さを、いつから当たり前のように受け入れていたんだ。
居なくなって初めてその存在の大きさに驚かされる。
「姉崎」
そうだ、こいつでなければ。
「?! な、何?!」
名字を呼ぶだけで真っ赤になるこの女。
出会ってから今まで、いつまで見てても飽きは来ない。
それでいて、側にいることが苦痛じゃない。
いや、むしろ、いないことが苦痛。
それなら、他の男に取られる前に。
「結婚すっか」
特に意図せず口が動いた。
ああ、その前に色々段階があった気がするが、別に構わねぇ。
どうせ行き着く先は同じだ。
実は内心俺も驚いたが、否定するつもりもない。
「け?」
何より、糞マネの顔の困惑ぶりのおかしさが俺を上機嫌にさせる。
「・・・誰が、誰と?」
「お前が俺と」
「・・・・・・意味が分からない」
「結婚(けっこん)は、主に男女が夫婦になること。あるいは夫婦間の結びつきのこと。(by Wikipedia)」
「・・・・・・・・・なんで?」
糞マネは混乱の極致です、という顔をしてこちらを見ている。
けれどその顔に嫌悪はない。ああ、わかりやすい女だなテメェは。
「付き合って下さいとか、好きですとかなら判るけど、結婚?」
「テメェ俺が『付き合って欲しい』とか『好きだ』とか言ったら信じねぇだろ」
「うん、そうだけど」
「だからだ」
一番わかりやすい言葉でわかりやすく目的果たそうとしてんだろ。
「訳が分からない!!」
説明してやってもこの有様、更には逆ギレしそうな勢いの糞マネに俺はわざとらしくため息をついてみせる。
「何よその態度!」
「プロポーズされてその態度なのはどうかと思うが?」
「プ」
再び硬直する糞マネに俺は低く笑ってその手を取る。
指、細いな。
「行くぞ」
「ど、どこに、っていうか、データまだ纏まってなくて、ほらカップとか片付けないと」
戸惑う糞マネはなかなか立ち上がらない。
もうこれ以上手間を掛けたくなかった俺は、ひょいと糞マネを担ぎ上げた。
あー軽い。こりゃ糞インフルエンザで窶れた分も入ってんな。
「なっ!? ちょ、っと、ヒル魔くん!?」
騒ぐ糞マネの声をBGMに、俺は部室のドアを蹴り開ける。
そこには所在なげに佇む部員共の姿。予想通り。
なんだかんだで騒いだ後だ、入ってこれずにずっと立ち聞きしてんだろう。
「え、え?! みんな、聞いて・・・た、の?」
「っつー訳で説明不要だろ。後はテメェらで片付けとけ」
「えええ?! ちょっと待って?!」
混乱する糞マネを余所に連中を見回せば、どいつもこいつもやれやれと肩をすくめるばかり。
驚きも困惑もないあたり、客観的に見て俺たちはもう付き合ってるように見られてた訳だな。
どうりで糞ドレッドが絡む割に糞マネには手出ししないわけだ。
「この貸しは高いぞ、ヒル魔」
「そうっすね、式には呼んで貰わないと!」
「せいぜい逃げられないようにするんだな、カス!」
「フー・・・披露宴の演奏は任せておけ」
賑やかな連中の間を通って進む最中、糞マネは諦め悪く叫ぶ。
「ちょ、ちょっと?! みんな、ちょっと待って私の意志は!?」
「無駄だって、まもりちゃん」
にやけた糞ドレッドの声が響く。
「だってまもりちゃんてば、一度もヒル魔のプロポーズ否定してないんだもんよー」
それに頷く大勢の気配。
絶句する糞マネを担ぎ直して、俺はケケケと笑い声を上げた。


***
マイナス思考のまもりちゃんを書こうと思ったけど、気が立っているヒル魔さんが出てきて彼視点になりました。このところの自分の苛立ちを代弁してもらってちょっと気が済みました。うふ。
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