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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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青い軌跡

(ヒルまも)
※5/30アップ『ゆめのあとさき』のつづきです
※15000HITお礼企画作品

+ + + + + + + + + +
NFLを散々に引っかき回した蛭魔妖一が引退したのは彼が日本を発って十二年を数えた年の春だった。
突然の引退に世間は騒然とした。
体力の限界か。
年齢的なものか。
それとも本格的に悪事に手を染めるのか。
好き勝手に騒ぎ立てるマスコミに、蛭魔妖一は沈黙を通した。
当初はマスコミに露出することもなかった彼だが、一旦出始めると、派手な外見と派手なパフォーマンスと鮮やかなトリックを次々と披露し、たちまち有名人となった。
派手な面に隠された努力家の一面を知る者はごく一部しかおらず、世間的には彼の存在自体が賛否両論だったが、おおむね好意的に認められていたのに。
そして沈黙を守ったまま、蛭魔妖一は日本へと帰国した。
どういう情報操作をしたものか、閑散とした空港を悠然と歩く彼の足取りは軽いものだ。
戦々恐々とする空港職員を横目に、彼はさっさとその場を立ち去った。



そうして数ヶ月の沈黙が続いた。
あの饒舌な悪魔の存在さえ忘れ去られそうになった熱帯夜。

『YA―――――――――HA――――――――――!!』

突如、TVやラジオ、果ては街頭の自動販売機の電光掲示板にまで表示された声に、日本全国がどよめいた。



その声によって唐突に発表されたのは、かつての全国高校アメフト大会、関東地区にて鎬を削った選手たちを中心とした者たちの招集及び彼らを日本代表とするNFLリーグ参戦だった。
その翌日、都内某ホテルに招集された面々に向かって、その中の一人が口を開いた。
「・・・一つ言ってもいいですか」
「はいどうぞ甲斐谷陸クン」 
ふざけた口調の水町がマイクを持っているかのように手を向ける。
「~~~なんで誰一人この招集に文句も言わず集まってるんですか!!」
「なんでって・・・ヒル魔だし」
とは筧。
「ンハッ! だってヒル魔だし」
とは水町。
「フー・・・しかたないな、ヒル魔だし」
とは赤羽。
「呼ばれたからには来ないわけにはいかないだろう、ヒル魔だし」
とは番場。
皆一様に顔を合わせ、突っ込んだ陸にあっさりと言い放った。
「ヒル魔だからって! それ理由になりません!!」
「まあまあ・・・」
「キッドさんも鉄馬さんもあっさり招集されてないでくださいよ!」
かくいう陸は来るつもりは絶対になかったのだが、進に道案内をしろと言われ、逃げ切れず捕まってしまったためにここまで来てしまったのだ。
けれど、たどり着いた会場には指名された選手が残らずいた。
・・・なんだこの面子。ヒマなのか。
現在も日本のXリーグでプロアメフト選手として戦う面々だから、彼らがヒマなどあり得ないのだが、思わず陸はそう突っ込まずには居られなかった。
「ヒル魔さんだから何を置いても来ないとね・・・」
「おう! ヒル魔先輩の助けになるなら協力MAX!」
「アハーハー! やはり僕の力も必要なんだね!!」
「僕まで呼ばれるとは思わなかったなあ」
かつての泥門デビルバッツの選手で今もアメフト選手なのはセナとモン太と瀧の三人だけだ。
他は皆それぞれの道に進んだ。
しかし雪光はサポートとして呼ばれた。ちなみに彼の職業はスポーツトレーナーである。
「まあ、お前らは判るよ。でも・・・」
ちらりと視線を投げると、そこには不機嫌な金剛阿含がどっしりと座っている。その隣には同じく雲水。
阿含は近寄る者を全て殺しそうな不機嫌、雲水はそんな阿含を全く気にせず隣で本など読んでいる。
なんでこの二人、普通に居るんだろう。その近くに一休と山伏もいた。
その他にも見渡せば大田原も桜庭もいる。サポートで医者の高見も来ているし。
「なんで俺まで呼ばれちゃってるの?」
「フン・・・久々に血が滾る・・・」
マルコに峨王、コータローもいるし、なんだか盛り沢山だ。
会場はプチ同窓会の様相を呈している。
ざわつく室内で、陸はため息をついた。
なんでツッコミが俺一人なんだろう、と己の性分を呪わずにはいられない。
「おー、揃ったか」
そこに飄々と現れたのは蛭魔妖一。ぐるりと面子を見渡し、ケケケと笑った。
「このクソカスが・・・」
阿含の唸りを完全に無視して、ヒル魔はマイクを用意し口を開く。
『大まかには昨日放送したとおり、この面子で一ヶ月後からリーグに参戦する。これから資料を配る。まもり』 
「はい」
と、ヒル魔の後ろから茶色い頭がぴょこりと現れた。 手には大量の資料を持っている。
「ま、まもりサン!?」
「姉崎さん」
「久しぶり、みんな」
にこにこと笑いながら、まもりは手際よく資料をそれぞれに手渡していく。
「姉崎さんはヒル魔のサポート?」
「半分はそうかな。半分はみんなのサポートよ」
彼女の左手薬指にはプラチナのリング。
まもりは妻として、またスポーツドクターとしてヒル魔のNFL時代を支えた人だ。
「半分?」
「私、主務兼任だから」
「・・・思いっきり趣味に走ったメンバーだな」
ケッと吐き捨てる阿含の頭を雲水がすかさず一発殴った。途端に一触即発の雰囲気になるかと思いきや、雲水の笑顔が絶対零度の冷ややかさで阿含を威圧する。・・・この十二年で何があったのだろうか。
手渡された資料には事細かに今回の契約事項と今後の予定が記されていた。
ヒル魔に代わってまもりがマイクを手に選手たちの質問に答え、一通り話が終わったところで。
『ではこれから皆さんをお部屋にご案内します』
「は?」
「部屋?」
皆が固まるのを見て、まもりはぱちぱちと瞬きし、後ろを見る。
「妖一? 言ってないの?」
「今から言う」
ヒル魔はまもりからマイクを受け取ると、にたりと笑った。
『一ヶ月後にリーグ参戦っつーことはだ。テメェら今日から一ヶ月ここにカンヅメにして練習三昧だ! 覚悟しやがれYA-HA-!!』
「「「「やっぱり」」」」
泥門OB四人はある程度予想済みだったようで、特に驚きもしない。
けれど他の面子は慌ててヒル魔に食ってかかる。
「これからの予定とか、チームの練習とかあるんスよ!」
「困りますよ他にも仕事が・・・!」
わあわあと騒ぐ面々に、ヒル魔はぴらっと書類を見せる。
そこにはそれぞれが所属するチームのオーナーからの選手提供に関する一筆が書き添えられていた。
しかもサポートに入る者たちへの配慮も同様で、皆は一様に黙り込む。
『テメェらだって本場の連中と戦いてぇ気持ちがあるから集まったんだろ』
わざわざ言わせるな、と言わんばかりの面倒そうな口調で、ヒル魔は言いはなった。


結局ブツブツ言いながらも皆はあてがわれたホテルの部屋に向かった。この後着替えてすぐ練習になる。
そのためにわざわざグラウンド近くのホテルを一ヶ月近く押さえたのだ。
「一つ聞きたいんだけど」
「なんだ糞メガネ」
「リーチエビルコーポレーション、って、ここ十年くらいで大きくなったアメリカの会社だろ」
「そーだな」
「なんでそこが日本代表チームのメインスポンサーになってるんだい?」
「そこが俺の会社だからだ」
「・・・は?」
呆気にとられる高見を置いて、ヒル魔はすたすたとグラウンドへ向かう。

ヒル魔は、アメリカに行ってアメフト選手として戦う傍ら、自らの能力を最大限に生かしIT関連の会社を立ち上げていた。 その会社は順調に業績を伸ばし、今では日本でもその名を知られる程になってきている。
ヒル魔はアメフト選手と社長の二足のわらじを履き続けていたのだ。
いつかこの日を迎えるための下準備として。
炎天下のグラウンドに、ヒル魔は真っ直ぐに足を運んだ。
揺らぐ地面に、かつての自分もこんな場所で走っていたのだと思い返す。
ヒル魔の意識が過去を辿る。


クリスマスボウルが終わった後、俺と姉崎の距離は急に広がった。
広がった訳じゃなく、元々あった二人の間を埋めていた『アメフト部』という存在がなくなって、互いにどう接したらいいか判らなくなったという方が正しい。
クリスマスボウル以前は漠然と思っていただけだったアメリカへの挑戦を本気ですることに決めたとき、真っ先に思ったのは姉崎のことだった。
俺は姉崎が側にいることが当たり前だと思う程に認めていたし、手元から離したくなかった。
けれど。
姉崎を俺の気持ち一つで連れて行くには、俺は姉崎を想いすぎた。
散々に葛藤し、結局姉崎にこぼれ落ちたのはたった一言。
『待てるか』
それは間違いなく甘えだった。
姉崎は待つか、ついてくるかのどちらかを選ぶだろうと、心のどこか願っていた。
しばしの沈黙の後、振られた首にどれほど落胆したか、多分姉崎は知らないだろうし、知らせるつもりもない。
けれどその後姉崎の進路を知ったとき、俺の気持ちは少なからず浮上した。
姉崎は待てないと言った。けれど畑違いだったはずのスポーツドクターという道を選んだということは、俺が用意しなかった『追いかける』という一つの選択肢を示したのだと理解できた。
ならば俺は待とうと決めた。
最低六年、姉崎が大学を経て勤めるまでに必ずプロになってやる。彼女の目標となるためにも。
その後未練を振り切るように俺はアメリカに渡り、入団テストを受け地道にプロへの道を目指し始めた。

アメリカに渡り七年目を数える頃には、俺はプロになっていて、姉崎も卒業して勤め始めたと聞いた。
けれど姉崎は沈黙を続けた。同様に俺も。
互いに沈黙しすぎて、俺は、もうこれ以上黙っているのが苦痛になっていた。
派手にアクションを起こしても良かった。
日本に姉崎を浚いに行っても良かった。
けれど俺は待ちたかった。
待ってあいつが自分の足でここまで来るのを見たかった。
あの時待てないときっぱりと言いはなったあの青い瞳を、強い意志を、もう一度見てみたかった。
わざと避けていたマスコミに対応していた他の日本人選手の背後で、指を閃かせる。
たった一言だけ、指で。
俺は本当にささやかな自己主張をした。
かつての俺を知る連中だったら、聞けば一笑に付すだろう些細なもの。
姉崎がそれを見るかどうかも判らない、そもそも流れるかどうかも判らないほんの一瞬に賭けたのだ。
その数日後、ムサシから電話が掛かってきた。
『とうとう動いたか』
俺たちの間に挨拶なんてまどろっこしいことはない。いきなり話を切り出されても驚かない。
「あ? なんのことだ?」
『姉崎、今日の便でそちらに行くとさ。N058便だ』
「ご丁寧にドーモ」
『なあ、ヒル魔』
「ア?」
『よかったな』
俺が何か言う前に、ムサシはさっさと通話を打ち切った。
・・・受話器を握りしめた俺の顔がどうだったかは誰にも知られてはいけない。
俺はこちらでも健在の黒革の手帳を取り出すと、早速行動を開始した。

そわそわと落ち着かない、という感覚を味わったのは久しぶりだった。
待つことは苦痛ではないし、焦燥を感じるくらいなら先に動いてしまうことがほとんどだったから。
けれどあの日の姉崎を思い浮かべると、俺はこれ以上動くことが出来ない。
脳裏で浮かべる今までの期間はあの怒濤の八ヶ月を遙かにしのぐ数を示していて、こんなにも間が開いていたのによく待ち続けられたものだと自分で感心してしまった。
なぜそんなに、一年にも満たなかったあの期間を後生大事にしてここまで来たのか。
全ては一言に集約される。
口にした途端に一気に安っぽく成り下がる気がして表せない。 
その時を待つ俺のすぐ隣で、着陸した飛行機の轟音が響いた。


「妖一!」
「ア?」
「なんでこんな直射日光が当たるところで立ってるの。もう」
練習まではせめて日陰にいてよ、と苦笑するまもりの瞳は今も変わらない深い青。
ヒル魔は空を見上げる。強い日差しを遮るものもない、強烈な青。 
クリスマスボウルを目指す、と決めた日の空もこんな色だった。
「とうとう始まるわね」
まもりは感慨深げに手元の書類を眺める。
本場アメリカにて、蛭魔妖一という個としての挑戦は成功した。
次は個々にではなく、団体でアメリカに挑戦する。
そんな途方もないと思われたヒル魔の夢を、まもりは再会してから知った。
そして今も、ヒル魔の傍らにいて叶えるべく共に歩いている。
「まだスタートラインだ」
「そうね」
誰もが無理だ、と言うことをやり遂げる、その達成感を知る二人だから。
この二人の間での夢物語は、叶えばいい、で終わらない。
必ず叶わせるものなのだ。 

二人で待つグラウンドに、着替えた選手たちが続々と集まってくる。
「なんでユニフォームは青なんだ?」
「なんとなくヒル魔だと黒とか赤の印象なのになあ」
皆が首を傾げる中、ヒル魔はただにやりと笑う。


―――――――青は、全ての始まりの、色。


***
ぽん様リクエスト『ヒル魔監督+まもり主務』でした。15000HITお礼企画の締めにふさわしい作品となったのではないかと個人的には思っておりますw前作『ゆめのあとさき』にて書けなかったヒル魔の視点を書くことが出来てとても嬉しいです。ちなみにリーチエビルという会社名はleech(蛭)evil(魔)から付けました。単純!
リクエストありがとうございましたー!!

ぽん様のみお持ち帰り可。

リクエスト内容(作品と合っているかどうか確認のために置きます)以下反転してください。 
『ヒル魔が経営及び監督をしているアメフトチームのスポーツドクター兼主務のまもりちゃん。(できれば選手は関東オールスター選抜でお願いします。)』アメフトを続けているヒル魔さんたちを書くのは楽しかったです♪呼び方が他のシリーズと違って名前呼びなのも新鮮でした。
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ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。

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